高い架台の太陽光パネルの下でトラクターが作業する大規模な営農型太陽光発電所

導入事例

大手参入から地域主導まで――営農型太陽光発電の最前線を歩く

千葉エコ・エネルギー――業界を牽引するパイオニア

営農型太陽光発電の導入事例を語る上で欠かせないのが、業界のパイオニアである千葉エコ・エネルギー株式会社です。千葉県匝瑳市を中心に、大規模なソーラーシェアリングの実証・運営フィールドを展開し、業界標準となる知見を数多く発信してきました。

匝瑳市の一帯は、耕作放棄地が広がっていた地域を営農型太陽光発電によって再生した先進地として知られています。メガソーラークラスの営農型発電所の下部農地では大豆や麦などが栽培され、発電事業の収益の一部が農地再生や地域の担い手支援に還元される仕組みが構築されました。「発電事業が農業を支える」という営農型太陽光発電の理念を、地域スケールで実証したモデルケースと言えます。

同社の取り組みで注目すべきは、データの蓄積と公開に積極的な点です。作物の生育データ、遮光と単収の関係、営農コストの実際など、事業判断に必要な一次情報を長年にわたり蓄積しており、後発事業者の設計・営農計画の精度向上に貢献しています。近年は農業ベンチャーの育成や体験型イベントなども手がけ、ソーラーシェアリングを核とした農村地域の活性化モデルへと発展しています。

クボタ――農機メーカーによる約60ha・15MWの大規模展開

2025年6月、農業機械最大手のクボタが発表した営農型太陽光発電事業の大規模拡大は、業界に大きなインパクトを与えました。栃木県および茨城県内の耕作放棄地を含む約60ヘクタールの農地に、合計約15MWの発電所を新設するという、国内の営農型としては最大級のプロジェクトです。

この事業の特徴は、発電した電力を自社工場へ供給し、年間約7,800トンのCO2削減を見込むという「自家消費・コーポレートPPA型」のスキームにあります。FIT売電に依存せず、自社グループの脱炭素目標の達成と電力コストの安定化を目的とした設計は、これからの営農型太陽光発電の主流となるモデルを先取りしたものです。下部農地では米・麦・大豆といった土地利用型作物の栽培が行われ、農業機械メーカーとしての知見を活かした機械化営農体系が構築されます。

クボタの参入が持つ意味は、単なる1案件の規模にとどまりません。農機・農業ICTのリーディングカンパニーが営農型太陽光発電を事業として本格化させたことで、資材・施工・営農管理の各分野に信頼性の高いソリューションが供給される期待が高まり、業界全体の底上げにつながると見られています。

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出光興産――可動式架台で「新エネ大賞」を受賞

エネルギー大手の出光興産は、技術面で営農型太陽光発電の次世代モデルを切り拓いています。同社が開発を進める次世代営農型太陽光発電システムは、太陽光を自動追尾する可動式架台と両面受光型パネルを組み合わせたもので、2025年1月には「新エネ大賞」を受賞しました。

千葉県木更津市での実証では、パネルの角度を作物の生育ステージや天候に応じて制御することで、野立て発電設備と同等の発電量を確保しながら、下部農地で栽培した米の収量・品質にも問題がないことを確認しています。「発電を増やせば営農が犠牲になる」という従来のトレードオフを、可動式架台の制御技術で克服しようとするアプローチであり、営農型太陽光発電の設計思想を一段階進めるものです。

同社は2025年度に2MW規模の大規模プラント建設を予定しており、実証から商用展開へのフェーズ移行が進んでいます。石油元売りという事業ポートフォリオの転換を迫られるエネルギー企業が、農業分野の再生可能エネルギーに本格投資する構図は、エネルギー業界の構造変化を象徴する動きとしても注目されています。

ワタミ――「営農強化型」モデルと地域復興

外食大手のワタミは、岩手県陸前高田市で被災地復興と連携したユニークな営農型太陽光発電を展開しています。同社が提唱する「営農強化型」モデルは、太陽光パネルの架台を果樹棚や雨除け、防風・防雹の資材として積極的に活用し、発電設備が農業生産性の向上に直接貢献する設計思想を採用している点が特徴です。

ワタミオーガニックランドと呼ばれる同地の農場では、営農型太陽光発電による電力を園内で活用しながら、有機農業と食育・観光を組み合わせた6次産業化の拠点づくりが進められています。発電・農業・食・観光を一体で運営することで、単体では成立しにくい事業を相互に補完させる仕組みは、農村地域における事業開発の参考例となっています。

「発電設備はあくまで農業を強くするためのインフラ」という同社の位置づけは、営農がおろそかになりがちな業界の課題に対するひとつの回答でもあります。設備設計の段階から営農上の便益を組み込む発想は、今後の案件開発における重要な潮流になると見られます。

地域主導の中小事例――市民発電と耕作放棄地再生

大手企業の大型案件が注目を集める一方、営農型太陽光発電の裾野を支えているのは、全国に広がる50kW未満の地域主導型案件です。市民出資による「ご当地エネルギー」型のソーラーシェアリング、家族経営の農家が後継者の就農を機に導入した案件、集落営農法人が耕作放棄地を引き受けて発電と営農を再開した案件など、その形態は多様です。

たとえば関東近郊では、耕作放棄地を再生してブルーベリー観光農園とソーラーシェアリングを組み合わせ、摘み取り体験の集客と売電収入で安定経営を実現した事例が知られています。また、神事用の榊や原木しいたけのような陰性作物を組み合わせ、高い遮光率で発電量を確保しながら営農を成立させた事例は、条件不利地の活用モデルとして各地に広がりました。市民発電型の案件では、売電収益の一部を地域の子ども食堂や環境教育に充てるなど、地域課題の解決と結びつけた運営も見られます。

これらの中小案件は1件あたりの規模こそ小さいものの、累計許可6,137件の大半を占める業界の主役です。地域の農業委員会や住民との信頼関係の上に成り立つ小規模分散型の事業は、2026年制度改正が目指す「地域と調和した営農型太陽光発電」の原型とも言えます。

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事例比較と成功条件の分析

ここまで見てきた事例を、規模・作物・事業モデルの観点で整理すると次のようになります。

事例規模主な作物事業モデルの特徴
千葉エコ・エネルギー(匝瑳)メガソーラー級大豆・麦など耕作放棄地再生×地域還元、データ公開で業界を牽引
クボタ(栃木・茨城)約60ha・約15MW米・麦・大豆自社工場への電力供給(自家消費・PPA型)、機械化営農
出光興産(木更津)実証→2MW計画水稲可動式架台+両面受光で発電と営農を同時最大化
ワタミ(陸前高田)中規模有機農産物・果樹営農強化型、6次産業化・観光との複合
地域主導型(全国)50kW未満中心ブルーベリー・榊・しいたけ等市民出資・家族経営、地域課題解決と連動

成功事例に共通する条件は3つに集約できます。第一に、営農の担い手と営農計画が最初から具体的であること。発電ありきで営農を後付けした案件との差は歴然です。第二に、売電に依存しない収益設計です。自家消費・PPA・高付加価値農業などの複線化が、FIT単価低下時代の採算を支えています。第三に、地域との関係構築です。農業委員会・自治体・周辺農家との信頼関係が、許可の更新や事業拡張の土台になっています。

逆に、これらを欠いた案件がどのような問題を引き起こしてきたのかは、課題:優良事例と不適切事例のページで詳しく報告します。また、これら事例を支える資材・施工の供給側の動向は資材・施工業者の動向をご覧ください。